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Friday, July 16, 2004

【謀略をやっているのはムーアの方?】

■「華氏911」とイスラエル (田中宇の国際ニュース解説

まだ観てもいない映画についてどうのこうの論評するのはフェアじゃないけれど、今日メールで配信された「田中宇の国際ニュース解説」の記事には「なるほど・・・」と思わされる部分があった。

今週のニューズウィーク日本語版(2004.7.21号)の特集「ムーアの戦争」でも取り上げられているように、『華氏911』がブッシュとサウジアラビアに対する批判に偏りすぎているのではないかという論評は確かにあるようだ。

 ブッシュ政権を憎む人が世界中で増えた中で、マスコミで報じられてこなかったブッシュ政権の暗部を描いたこの映画が絶賛され「ムーアはブッシュの謀略を暴いた」という指摘があちこちから出てくるのは当然といえる。ところが、米国人の中でも、911以来、アメリカの政治情勢をウォッチし続けてきた人々はむしろ、この映画を見て「謀略をやっているのはムーアの方ではないか」と感じている。

 というのは、この映画の内容には、911からイラク戦争にかけてのブッシュ政権の動きを作ったネオコンの存在が全く盛り込まれていないからだ。ネオコンはイスラエル右派と親密であるとされるほか、イラク駐留米軍はイスラエルが立てた戦略に依存している感もあり、ブッシュ政権の裏側を描くなら、ネオコンとイスラエルの存在について触れないのはおかしいが、この映画には、全くそれが描かれていない。ネオコンの中でウォルフォウィッツだけは映画に出てくるが「ネオコン」としてではなく「共和党右派」として登場している。(イスラエル化する米軍)("Michael Moore Shills for Illuminati Bankers"

 911事件にサウジ当局が関与していたという見方は、イスラエルとタカ派にとってプラスになり、中道派を不利にした。イスラエルとタカ派をつなぐ勢力であるネオコンはイラク戦争前、イラクを皮切りにした中東の強制民主化計画の次の標的としてサウジアラビアを挙げていた。このような状況から考えると、911とサウジアラビアのつながりを強調する一方で、イスラエルやネオコンの影響力について全く語っていない「華氏911」は、タカ派やイスラエルが有利になるような配慮を持って制作された可能性が大きい。("Fahrenheit 9/11: Factual or Saudi-bashing?"

 この映画を見て、ムーアとネオコンはつながっているのではないか、と指摘する分析もあるが、確かに、この映画の主張を鵜呑みにする人が多いほど、イラク戦争を起こして泥沼化させた張本人であるネオコン勢力は、罪をブッシュとサウジアラビアに押し付けることができ、自分たちの責任を問われずにすむ。("Michael Moore and Richard Perle Combine Forces"

この記事で指摘されている「ムーアの企み」が意図的なものかどうかは(とにかくまだ作品を観ていないので)判らないけれど、イラク戦争の強力な推進力と成っていた“ネオコン+キリスト教福音派+イスラエル右派”について全く言及が無いとすれば、それは確かに奇妙だ。あまりにも奇妙すぎて“意図的だ”とされても仕方ないかもしれない。

ムーア監督の作品を純粋なドキュメンタリーだと思っている人は居ないと思うけれど、彼の“プロパガンダ爆弾”が大統領選挙に向けて周囲の予想をはるかに越えた影響を持ち始めているのは確か。それにともなって、この作品に対する検証や批判が沸き起こるのはごく自然なことだ。それに、いつの時代も個人がタブーに挑戦すると反撃も大きい。

ムーアもそこは覚悟の上だろう。事実、彼のウェブサイトのコメントによると「この作品で提示している全ての事実は3つの弁護士チームを含む総勢12名の専門家によって徹底的に検証した。」とのこと。このチームによる執拗なまでの検証結果も、彼のサイトで閲覧できる。

For now, please know the following: Every single fact I state in "Fahrenheit 9/11" is the absolute and irrefutable truth. This movie is perhaps the most thoroughly researched and vetted documentary of our time. No fewer than a dozen people, including three teams of lawyers and the venerable one-time fact-checkers from The New Yorker went through this movie with a fine-tooth comb so that we can make this guarantee to you. Do not let anyone say this or that isn't true. If they say that, they are lying. Let them know that the OPINIONS in the film are mine, and anyone certainly has a right to disagree with them. And the questions I pose in the movie, based on these irrefutable facts, are also mine. And I have a right to ask them. And I will continue to ask them until they are answered.
ちょうど昨日イギリスの独立調査委員会がイラク戦争の大儀を形成した諜報活動には確たる根拠が無かったというリポートをリリースしてブレア首相が窮地に陥っているけれど、こういう形で官民上げて「イラク戦争」(あるいはブッシュによる「テロとの戦争」)に対する評価分析を行うことは必要不可欠。

そういう意味では、民間からの強烈な一撃となった『華氏911』が「作品として脇が甘い。」と言われようが、「信憑性に欠ける。」、はたまた「偏向している。」と非難されようが、今まで語られる事の無かった事実に光を当てて、新たな視点と議論をはじめるきっかけを作ったことは正当に評価されるべきだろうと思う。それにつけても8月の公開が待ち遠しい。

July 16, 2004 in Politics | Permalink

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