【WBCに“フィールド・オブ・ドリームス”をみた】
Wednesday, March 22, 2006
■祝!王ジャパン世界一!
「世界一!」・・・あぁ、なんと甘美な心地よい響きの言葉でしょうか!
思えば現役時代の背番号は「1番」であだ名は「ワンちゃん」。「世界で初めて」「一本足」で打つフラミンゴ打法を生み出し、「世界のホームラン王」と成ってアメリカ野球界でもその名を知らぬものは無いという、とにかく「世界」という言葉と「一」という数字にとっても縁のある王監督が率いるチーム・ジャパンが「第一回目」のWBCで「初の世界一」に成ったというのは、実に運命的です。
そして日本人は「世界一」がほんとに大好きなんだということを、今回改めて認識させてくれた大会でした。
春分の日の昨日、世の中は休日なのに僕は午前中から打ち合わせがあり、この記念すべき一戦の中継を観ることが出来ずに、打ち合わせをしながらケータイのテキスト速報をチラチラとチェックしていたのです。
キューバとはおそらく接戦に成るだろうと予測していたので、初回に4点を取ったという第一報を見て驚くと共に、「もしかしたら・・・」という思いと、何とか中継を観たいという気持ちが交錯して心ここにあらずという状態でしたが、打ち合わせが予定より少し早く終わったので、早速テレビの前に駆けつけて何とか6回の表から観戦する事ができました。
それにしても凄い試合でした。途中から観たにも関わらず、知らず知らずの内に引き込まれ、そして気がついたら夢中で応援している自分が居ました。こんな感覚は何年ぶりでしょうか?
考えてみると、何十年ぶりのことかもしれません。
まだ小学校に入ったばかりの頃、父親に連れられて後楽園球場に巨人戦を観に行った事があります。
その席はジャイアンツのベンチ裏の席で、すぐ目の前で憧れの王や長嶋がウォーミングアップをしていて、試合そのものよりも彼らの一挙一投足に釘付けになっていたのを記憶しています。その頃の僕は、紛れも無く正真正銘のジャイアンツ・ファンでした。
王選手のサイン入りボールやバットや色紙を手に入れてはそれを部屋に飾り、試合があれば欠かさず観戦し、ベースボールマガジンを毎号購読、マンガはもちろん「巨人の星」を読み、川上監督を神のごとく崇めるというまさにジャイアンツ愛にあふれた日々が思い出されます。
でもいつの間にかその熱も冷め、近頃は時おり「やっぱりナベツネがさ~。」なんてひねたウンチクを垂れる以外は、別に試合を見るわけでもなく、スポーツ新聞も買わず、選手の名前も顔もうろ覚え、でもちっとも困らないという“大人”にすっかりなっていたのです。
で今回のWBC。個人的には昨年末に仕事でアメリカのエージェントから日本でのオフィシャル・サイトのスポンサー・セールスの打診があったりして、そういう意味での関わりはあったけれど、正直言って上手く行くかどうかについては相当懐疑的でした。
アサヒビールの「私達は世界一を目指す王ジャパンを応援します」というコピーを見ても「そうでも言わないと盛り上がらないもんね。」というひねた印象しか持てなかったのです。(しかしこのコピーはそのまんま実現してしまいましたね。言霊パワーでしょうか。コピーライターも“まさか本当に成るとは”と驚いたことでしょう。)
そんな訳で試合が終わってみると、自分が久しぶりに一球一球に反応して一喜一憂し、心から応援できたことがとても新鮮で、何故か子供の頃の記憶と共に懐かしい感覚が蘇ってきたのです。
いうまでもないことですがベースボールは“記録と記憶のスポーツ”という側面があります。アメリカでは往年の名選手のトレーディングカードが高額で売買され、熱烈なファンにとっては、選手の生涯打率やチームの戦績のデータを時系列に沿って連綿と記憶していくことが、リアルタイムで行われている試合結果を追うこと以上に重要だったりします。
そういう意味で、「ワールド・ベースボール・クラシック2006 第一回大会初代世界チャンピオン」というタイトルは、この大会が今後継続するしないに関わらず、たとえ今回限りで終わってしまったとしても、ベースボールというスポーツが続く限り残っていく歴史的マイルストーンなのです。
10年20年経って振り返ったときに、人々の記憶に残るのは「2006年に開催された第一回目のWBCで日本代表チームが世界一に成った」という事実。いわゆる世紀の誤審や疑惑の判定、さらには韓国メディアが揶揄するような大会ルールや制度の偏りは枝葉末節であって、時の運を得て勝ち残った末に得られた栄冠は永遠に語り継がれるのです。
おそらくそのことをイチロー選手は誰よりも早く気が付いていたのかもしれません。メジャーでは不遇にも優勝の機会が得られずに居るイチローはしかし、このWBCこそベースボールの歴史に更に大きく名を残す絶好の、そして千載一遇のチャンスであることを知っていたのでしょう。彼にとっては正に夢の実現だったのです。
試合を振り返ってもう一つ思い出したことがあります。それはケビン・コスナー主演の「フィールド・オブ・ドリームス」という映画の中で謎の声が主人公に語りかける「IF YOU BUILD IT, THEY WILL COME...」というフレーズです。
コスナー演じる主人公が、この声に突き動かされてトウモロコシ畑をつぶして野球場を作ると、そこに何処からとも無く伝説の大リーガー達が現れて試合をするという、それだけだと何とも荒唐無稽なストーリーのこの作品。僕は何故か何度観ても涙が止まらなくなってしまい、そして見終わった後にとても幸せな気分に成るという不思議な癒し系映画ですが、もしかしたら今回のWBCは、この作品で描かれていた“FIELD OF DREAMS”そのものだったんじゃないかという気がしています。
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